最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)974号 判決 1962年2月20日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山本猛之助の上告理由について。
約束手形の支払地となしうる地域は最小独立行政区画であると解すべきであり、東京都においては区が最小独立行政区画をなすのであるから、本件約束手形の支払地として単に東京都とのみ記載したのは手形要件の記載として不完全なものであるこというをまたない。しかし、手形要件の記載は必ずしも常にその記載欄になされなければならないものではなく、手形面上に実質的に具備されていればよいと解されるから、前示のように支払地の記載が不完全な場合、右記載に、表示された振出人の意思に反する結果を生じない範囲において、支払場所の記載をもつて補充をすることは、もとより是認しうるところであり、右補充が可能なかぎり、所論のごとく、支払地につき不完全な記載がある場合に、支払地の記載を全然欠く約束手形と同様、手形法七六条三項の規定により、振出地の記載をもつて(振出地の記載もまた不完全な場合、さらに、同条四項の規定により、振出人の名称に付記した地をもつて)これを補充することが許されるか否かを問う必要をみないといわなければならない。ところで、本件約束手形の支払場所「自宅払」という記載は、振出人の住所として手形面に記載してある場所を指称するものというべく、かつ、右振出人の住所とは、本件約束手形の共同振出人として列記されている者の筆頭にある訴外株式会社丸喜の住所である東京都世田谷区喜多見町三、九〇五番地と解するのが相当である。しからば、本件約束手形の支払地東京都という不完全な記載は、右支払場所の記載をもつて補充し、これを東京都世田谷区の意と解することができるものといわなければならない。
叙上説示したところによれば、本件約束手形の支払場所は前示上告人の住所であると解した原審の判断はまことに正当であり、これに反する所論第二点は採用できない。また、原審が本件約束手形の支払地の不完全な記載を手形法七六条三、四項によつて補充解釈すべきものとした判断が仮りに誤つているとしても、東京都世田谷区をもつて支払地であるとした原審の結論自体は正当として是認できるから、本件に手形法七六条三、四項を適用すべきものとした原審の判断を非難する所論第一点は判決に影警を及ぼすこと明らかな法令違背の主張ということはできず、これを採用するに由ない(所論引用の判例はいずれも本件に適切でない)。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 五鬼上堅磐)